冬の登山の時、低体温症の恐れがあると知られていますが実は春、夏と秋でも低体温症の恐れもあります。キャンパー、山行者などは『天気良さそうだからショートパンツで行ける。』『天気予報が大晴れとなっているからジャケットはいらないね。』『日帰りハイキングだから予備の服を持って行かなくてオッケー。』の気持ちで山に行く人たちが多いです。但し、気をつけないと、真夏でもびっくりするほど低体温症になれます。夏なのに低体温症になる理由は主に2つあります。
1. 山の天候が変わりやすい
2. 標高が高ければ高いほど気温が下がる
深部体温(直腸温、膀胱温、食道温、肺動脈温等)が35℃以下に低下した状態が低体温症と言います。出典:松山赤十字病院救急部カンファレンス
低体温症になりやすいコンディション
『登山、ハイキングの時、最高の天候を望んでいいけど悪天候になると思って準備する』を思うことがベストアドバイスです。理由は山の天候が変わりやすいことと標高が高くなればなるほど気温が下がるからです。
1. 山の天候が変わりやすい
皆さんは山に行く前に天気予報をしっかり見て、天クラなども見ていると思いますが天気予報で言っているコンディションと実際の天候が異なる時が多いです。逆に、天気予報と実際の天気が一致している時が非常に少ないのが現実かもしれません。『晴れ』マークがついて、山に入ると雨。天くらでは登山に一番適切している『A』マークとなっているけど行ってみると実は『C』でした。みなさん、こういう経験ありませんか?風が強くて、曇ってて、若くは雲の中にいる、雨も降ってて。。。まさか、夏なのに雪?!何分間大晴れ、すぐに悪天候、またすぐに大晴れ。。。この繰り返しは山の天気です。そして、寒くなってない?
2. 標高が高くなればなるほど気温が下がる
是非頭に入れて欲しいのは標高が100m毎に気温が0.6℃下がります。松本市(標高約600m)市内の気温が20℃となっている時、上高地(約1500m)の気温が14.6℃となっており、奥穂高岳山頂(3190m)が4.5℃となっています。もちろん、テン泊する予定でしたら夜の気温が下がることも考えないとダメですし。僕らは去年のシルバーウィーク奥穂高岳を目指して4泊して、前穂高岳でテン泊した時の夜の気温は -3℃まで下がった。雨もなく、雲もなく、風もなく、ベストコンディションで -3℃でした。)ですので、松本市の20℃の気温に合わせて服などの準備をしないで、山頂のベストコンディションの4.5℃に合わせて準備しないで、絶対風が吹く、絶対雨が降る、雪が降ってもおかしくないと思って何を持っていくべきかを考えなければならいのです。
先ほど奥穂高岳に行った時のベストコンディションの -3℃ の時の天気が本当に素晴らしかった。にしても -3℃。雨が降ってたら、風が吹いてたらもっと寒く感じてた。。。気温は -3℃ のままでももっと寒く感じたのは事実です。この『もっと寒く感じる』のは雨や風による『体感温度』のことです。
キャンパーにとっては5つのヒートロス方法(熱損失)がありますがここでは『熱伝導』と『熱伝達』を中心に説明したいと思います。(ヒートロスをもっと詳しく)
熱伝達は気体若くは液体の対流での熱移動と言い、熱伝導は物と物が直接接している時での熱移動と言います。上記イラストの左側の熱伝達は風が肌に当たると皮膚からの何ミリの距離の間の体熱が奪われ、体がそれを感じ平常体温を保つ為もっと体熱を作ることで体がヒートロスとなります。右側の熱伝導は雨が肌に接し、空気に奪われるヒートロスより25倍の速さで体熱が奪われます。一番最悪なパターンは強い風に雨。。。体熱があっという間に下がって行く。(なぜ43℃の温泉が80℃以上あるサウナより暑く感じる?正解は熱伝導です。外気温と川の水温が同じ20℃なのになぜ川に入っているとすごく冷たく感じる?熱伝達と熱伝導が発生しているからです。なぜ熱いコーヒーを飲む前にふうふうする?熱伝達によりコーヒーが冷めるからです。)
熱伝達は山行者の場合『風』が一番当てはまります。(沢登りの場合は水の対流→熱伝達と水が体に接している→熱伝達と熱伝導)風が吹いて、皮膚に接すと熱伝達が発生して、体温低下する恐れがあります。気温が25℃あるのになぜ寒く感じる?理由は風が体熱を奪っているからです。この『感じる』気温のことは『体感温度』と言います。体感温度に影響されるのは気温、風速と湿度となっています。(ところで英語圏の国は体感温度のことを the wind chill factor と言います。)わかりやすくチャートにしました。
データ出典:NOAA/NWS
これからの説明するためのベース数字:
松本市(約600m)20.0℃
上高地(約1500m)14.6℃
岳沢小屋(2170m)10.6℃
前穂高岳(3090m)5.1℃
奥穂高岳山頂(3190m)4.5℃
上高地の14.6℃の気温は山登りにとても適切している温度で気持ちです。岳沢に着くと気温が10.6℃まで下がり、休憩を取り運動も止まり、ちょっと肌寒いかもしれませんが風速10km/hになっていると体感温度が9.4℃となり、感じない程度です。岳沢を出発し前穂高岳に目指して、前穂高岳に着くと気温が5.1℃になります。10km/hの風があると体感温度が3℃となります。風が20km/hの場合、体感温度が1℃となり、風速が上がれば上がるほど体感温度が低下します。では、奥穂高岳山頂に着くと天候が崩れて気温が一気に0℃まで下がって、風も強く吹いてて、時速30kmの場合の体感温度が -6℃ となります。寒いです。しかも、雨も強く降っていると熱伝導も発生し体がますます冷え込み低体温症になる恐れがとても高くなっています。風(熱伝達)と雨(熱伝導)の組み合わせで夏でも低体温症になるのは珍しくないです。
低体温症のよくある症状
震える
めまい
お腹が空いている
吐き気
呼吸が平常ではない(早いか浅いか荒いか遅いか、若くはこの中のいくつかが同時発生)
眠い
動きが鈍い
集中力が落ちている
声が弱い、はっきり喋れない
記憶力が落ちている
体がだるい
動くモチベーションが下がる
対策対処
『登山、ハイキングの時、天候を望んでいいけど悪天候になると思って準備する』のが低体温症に当てはまるベストアドバイスです。先ほど説明した標高による気温低下と体感温度を理解し、悪天候になると思ってリュックに何を入れていけば良いかを決めましょう。
1. レイヤリング
(Weather Layer)アウター・プロテクションレヤー(雨、雪、風に守られるレヤー) 風が吹くこと、雨が降ることを前提にして撥水性ではなく、耐水性ではなく、完全防水性レインウェアはマストアイテムです。(撥水性、耐水性、防水性をもっと詳しく)どの防水性レインウェアでも防風性なので防水性レインウェアを持って行けばウィンドブレーカーを用意する必要がなくなります。そしてもう1つ大切なのは透湿性のある生地でできているレインウェアにしましょう。透湿性のないレインウェアを着ると汗が蒸発してもレインウェアを通せないため、汗がそのまま皮膚に接し、熱伝導が発生して体温が下がる一方です。(暴風と透湿度をもっと詳しく)ゴム、ビニールで出来てるレインウェア、100均やスーパーやコンビニで売っているレインコートはNGです。スポーツ用品店でよく見かける防水防風を持っている素材はGore-TexとeVentです。オススメします。
(Warmth Layer) ミドル・インシュレーションレヤー(断熱レヤー)
フリースやライトダウンジャケットやソフトシェルなどがベスト。アウターは風、雨、雪などを退けるためで、ミドルは体が生み出している熱を保つためです。
(Wicking Layer) ベース・ウィッキングレヤー(ウィッキング = 汗を皮膚から移動させる働き)人工繊維(ポリエステルやナイロンやアクリルなど)若くはウールでできているものがベスト。
僕らは最低気温が15℃以下になる可能性があると思った時、フルレイヤリングを準備していきます。登山スタート時はベース、ミドル、アウターを着ないにしても標高が高くなると同時に服を少しずつ着替えて行きます。夜はタイツを入って寝るのが多いです。タイツに着替える事で完全に乾いている服を着ているからゆっくり気持ち良く寝られます。雨が降る時、風が強い時はもちろんアウターを着ます。山頂について冷え込まないためえ、ミドルを着る時もあり、夕方に晩御飯準備する時に3レヤーを着る時もある。大切なのは天候に合わせてその都度その都度服を着替えることです。天気が変わり激しい時は着替えの回数が増えるのですが体熱保つ目的とベースとミドルレヤーを乾いたままをキープする目的なのでストレスを感じません。
レイヤリングについてのもう一つ大切なのはコットン(綿)でできている服を着ないことです。スポーツしている時、ビーチにいる時、公園で散歩している時など、暖かい、暑い、気温が一定している時はコットンが良いです。その理由はコットンの繊維が水を吸収する特性があり、汗がコットンに吸収されて熱伝導でクールダウンできます。その反面、濡れているコットンは寒い時に体熱を奪います。
原理は『自然界は必ずバランスを取ろうとしています。暑いところから寒い所へ、高圧から低圧、多いところから少ないところへなど。どの状況でもプラスマイナスゼロにしようとしているのは自然界です。』暑い時は37℃の体温が周りの30℃に合わせようとしている。コットンを着ると繊維に汗が入っており、コットン自体が『くっつく』特性があり、皮膚に接したままで熱伝統が発生しクールダウンとなります。寒い時も同じ現象発生しますが決してクールダウンをしたくないです。逆に体熱を奪われないように頑張りたい。
2. 体を渇いた状態をキープする
コットンを着ないにしても必ず汗をかきます。汗でビショビショの時に風が強くなってきたらドライな服に着替えるのをおすすめします。体が濡れている状態に風が当たると一気に冷え込むからです。雨が降ってきた時、濡れたままレインウェアを着ても濡れているシャーツなどが乾きません。濡れたままレインウェアを着ると体が少しずつ冷え込みます。上記(1)と同じくマメに着替えるのがベストテクニックです。
3. きちんと水分補給する
脱水症状と熱中症には水分をたくさん取らないと理解しやすいのですが低体温症にならないためにもとても重要です。その理由はカロリー燃焼のためです。37℃の体温を保つためには体が食べ物、飲み物に入っているカロリーを熱エネルギーに変えるために水分が必要です。水分が不十分の時カロリー燃焼が上手く出来なくなってて、体が熱を生み出しづらくなってて、体温維持が難しくなります。結果は体温が下がっていきます。十分なカロリーを取っているのになぜ寒い?原因は水分不足になっているのを考えられます。
4. 悪天候の時すぐにシェルターを探す
シェルターは避難小屋、ヒュッテ、山荘、テント、ツェルトなどで、着ている服以外の悪天候に守ってくれる場所のことです。時と場合によって木下でもシェルターになります。強い風、土砂降りの時はできるだけ早くシェルターを探しましょう。山荘が遠い場合テントを設営して天気が回復するまでテントの中で待ちましょう。テント設営できない場所にいる場合は仲間と寄せ合ってテントのフライシートを屋根にして、お互いの体熱をシェアしましょう。
5. 冷静に下山判断する
せっかく休みを取って、仲間と山に入って、どうしても山頂まで行きたい!この気持ちはよくわかります。僕らもそう。でも、事故に会うか、無事下山して違う日に再チャレンジするのか。。。この判断は自分しかできないです。
低体温症になった時
1. 迅速にシェルターに移動
2. 濡れている服全部脱いで、渇いた服に着替え、寝袋があれば寝袋に入る
3. 温かい飲み物を飲む(ふうふうしなくても飲める熱さ)
4. 湯たんぽ(ナルゲンボトルにお湯を入れると立派な湯たんぽになります)若くはカイロなどを太い血管のところにつける。(火傷しないように十分気を付けましょう)太い血管は鼠径部、脇、首とお腹。血管を温めることで流れている血液が自動的に全身を回り、体温がスムーズに上がります。
5. 最終手段は低体温症になっている人と相方が服を脱ぎ、お互いの体熱をシェアする。但し、第二次事故を起こさないことがとても大切です。つまり、相方がほんの少しでも寒いと思ってたら決してやらないでください。相方は低体温症になっている人に体熱を奪われ、相方も低体温症になる恐れがあります。
6. 回復したら(天気次第)すぐに下山して病院へ
まとめ
* 冬(氷点下)の時だけではなく春、秋、夏でも低体温症になる恐れが十分あります。
* 理由は主に山の天気が変わりやすくなっていることと気温が下がることです。
* 体感温度は外気温、風速と湿度で決められます。
* 風は熱伝達で、雨は熱伝導で熱損失します。
* レイヤリングが大切
* できるだけ濡れないように努力する
* 体熱を生み出すためには水分補給が必要
* 悪天候の時すぐにシェルター
* 冷静に下山判断する
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参考のため是非下記ホームページを参照ください
低体温症をもっと詳しく
低体温症の原因と改善
低体温症.com
松山赤十字病院救急部カンファレンス